電車の中、ベビーカーに乗ってヒマそうにしてる赤ちゃん。
親は上の子の相手をしている。
赤ちゃんは自分の足を触りながら周りをキョロキョロと見回している。
ぼーっとした表情で。
僕は向かいのベンチからその様子をずっと見ていた。
赤ちゃんがこっち向かないかなと期待をしながら。
そのときはやってきた。
赤ちゃんと僕の目が合った。
僕はその瞬間、満面の笑顔を作った。全力、満面の笑顔を。
赤ちゃんは僕の笑顔をしばらく見ていた。
そして笑顔になった。
赤ちゃんと僕は通路を挟んでしばらく顔だけで笑いあっていた。
赤ちゃんが左手で自分の左足を触ったので、僕は右手で自分の右足を触った。
そう、鏡のように。
赤ちゃんはそれをまたぼーっとした表情になって見ていた。
僕は右手で左腕をさすってみた。赤ちゃんは左手で右腕をさすった。
そう、鏡のように。
そして満面の笑顔を浮かべた。
そうして赤ちゃんと僕が遊んでいることに、赤ちゃんの上の子が気づいた。
上の子がこっちを見ていることを、赤ちゃんの親が気づいた。
僕とその親は会釈した。