台風と親の葛藤

超大型台風19号が上陸した土曜日、妻は家族を置いて躊躇なく仕事に行った。
妻の仕事は看護師。入院患者を守らなくてはいけない。緊急入院に対応しなくてはいけない。
妻は娘たちが物心ついたころから、こう言い聞かせている。

「ママはな、地震が起きても台風が来ても仕事に行かなあかんねん」

災害時に何よりも優先して社会への貢献を期待されている職業。
自衛官、消防士、警察官、ほか様々な危機管理の仕事、医師や看護師もそれに含まれる。
この職業をどこで線引きすれば良いかというのは難しいけれど。

イオンが台風直撃の日も開業したとして、一部ネットで叩かれている。従業員の安全を守るべきだと。
それもわからなくはないけれど、ほとんどの店が閉めている中、開いている店があることで助かる人はいる。
話が逸れた。

そうやって15年間、和田家は妻が社会に貢献し、僕が家と娘たちを守る役割を担ってきた。
1年前の大地震のときも、妻は娘たちを知り合いに預けて仕事に行った。
僕が職場からとんぼ返りして娘たちを引き取った。

土曜日の台風当日の午後、どうしても僕が午後から出かけなくてはいけない用事ができた。
幸い、関西は直撃を免れるようだ。水害の心配はない地域だ。災害への備えはしっかりとして、娘たちにも伝えてある。
その上で知り合いに何かあったらお願いをして、僕は台風の中家を出た。

妻にはLINEで家を出ることと、備えはしっかり娘たちに伝えたここと、そしてご近所にヘルプをお願いしたことを伝えた。
それでも家を出るとき、心はザワザワしていた。これでいいのかと。
幸い、用事は中止になって2時間程度で家に戻ることが出来た。

これ、娘たちが高一と小六だからできたけど、ほんの3年前ならしなかっただろう。
どうしても家を出なくてはいけない用事よりも、どうしても家で娘たちといることを選んだだろう。
僕は今回葛藤した。だからこそわかったことがある。

妻も表面上は躊躇なく仕事に出かけるけど、心中では毎回葛藤しているのだ。
災害時に社会から活躍を期待され、仕事に行かなくてはならない職業の親がいる。
災害時に家族を守る役割を引き受けている親もいる。