赤ちゃんの背景であることをやめてみる 〜満員電車とベビーカー〜

平日昼間の大阪メトロ御堂筋線。
席はほぼ埋まっていて数人が立っている程度の混み具合の車両。
心斎橋駅から2人乗りベビーカーを押したママが乗った。

ベビーカーには1歳と2歳くらいの姉妹が乗っていた。
妹は後部座席でぐずっていて、姉は前部座席で身体ごとベビーカーを激しく揺さぶっていた。
大きなマザーズバッグがかかっていて、座席下の網や子どもの足元にも荷物がたくさん積んであるベビーカー。
まるで移動ベビールームのようだった。

ママは空いてる席を一つ見つけ、ベビーカーを席の前に横付けにして座った。
斜め前に座っていた僕は、妹の赤ちゃんと目があった。
ぐずっていた妹は僕と目があうと、ぐずるのをやめた。

以前に誰かが書いておられたことを思い出した。
電車でぐずる子の周りの大人が、子どもと全く交流しない「背景」であることをやめる。
背景から抜け出した「人間」になれば、子どもは人を意識して行動が変わると。

まさにそんな感じ。知らんおっちゃんに見られてると知った妹はぐずるのをやめてもじもじしはじめた。
怖がらせるのは本意じゃないので、僕は笑顔を作った。妹はずっともじもじしている。
その間、ママは姉のベビーカーゆすりを止めさせようとしていた。

ふと、姉が僕の視線に気づいた。そして姉ももじもじしはじめた。
僕はもじもじしてる姉に笑顔で手を振ってみた。姉はそっと手を振り返してくれた。
僕はその家族の隣に行って声をかけたかった。でも、どんな言葉をかける?

迷っているうちに梅田駅で車内が混みだした。
立っている人に遮られ、僕からその家族は見えなくなった。
またぐずりはじめた妹の声と、バタバタしている姉の気配が人越しに聞こえてきた。

だけど、それはすぐに止んだ。
家族の近くに立ったおばさんが声をかけていろいろ喋ってる気配。
姉妹とおばちゃんだけじゃなくて、ママとおばちゃんの話し声も聞こえてきた。

新大阪で家族は降りていった。
降りる時姉が、周りの20人くらいの大人を見回しながら全員に「バイバイ」と両手を振った。
手を振り返したのは、おばちゃんと僕の2人だけだった。